住まいに新しい価値を与える

STORY 3 瀬戸口 剛 日田職人・エラノイワ

interview: 日田職人 エラノイワ/バヒーオ主人 瀬戸口 剛

聞き手: 福岡移住計画 霜田 広太郎


全国的に課題となっている空き家問題。日本の人口減少は急激に進んでおり、今後3軒に1軒が空き家になると言われています。
夜明の宿プロジェクトでは、詩人北原白秋の生家もある柳川の沖端商店街にある空き家をベースにリノベーションをしました。

柳川の地域課題をクリアしながら地域を活性化したいという『夜明茶屋』金子社長の思いをカタチにするために担当したのは、建築デザイナーではなく、日田で職人的な活動と、バヒーオという伝統建築地域豆田の物件を活用してバーと宿を営む、瀬戸口剛さんだ。
柳川で暮らすように、旅をする場所をどんな思いで瀬戸口さんは取り組んだのだろう。

霜田:まず軽く自己紹介をお願いしてもよいでしょうか。

瀬戸口:私の拠点は大分県の日田市です。日田が地元で、高校まで日田にいました。
そこから東京に出て、20年ぶりに戻ってきたのが6年前になります。現在はこの日田市を拠点に九州各地を対象に今のような職人的なものづくりをしています。

東京では、職人として建築物の内装の仕事をしていました。
ビルで言うと丸ビルやミッドタウンとか1棟に関わるような仕事をずっとしてたのですが、10年ほどやってきて技術がほぼ身についてきて、やるところまでやってきたなという気持ちになりました。そこから東京ではなく、ルーツでもある九州に帰ってきて、ここでオリジナリティがあるものをつくりたいという思いを持ってきました。

東京では、大きなビルだけでなく大使館のような古い洋館なども含めて特殊な案件もこなしてきました。そこで様々な歴史や時間がつくったディティールのようなものに触れるにつれて、地方の街の物件やお店などに自分の技術を使いたいと思うようになっていきました。

仕事のスタイルの変化について

霜田:東京と地方での仕事のスタイルは変わりましたか?

瀬戸口:九州の案件が面白いと思えるようになったのは、ちょうど僕がこっちに戻ってきた2015年ぐらいで、R不動産とかがやっているような、ちょっと面白い建物をオリジナリティを出して価値をつけていこうといった動きがあった頃になります。
東京ではそういう物件に付加価値がついて、活用するにもコストが高くなってしまったところがありますが、九州に来ると眠っている空き家や空き店舗にめちゃくちゃいい物件があることがわかったんです。
もともとの素材も良ければ、環境も立地ももっと個性的で、その風土の土着的なものがあるような個性的でいいものがいっぱいあるので、もったいなというかやりたいなという物件がいっぱいあったんです。これは絶対にこっちのほうが面白いぞというのがあって。

建築素材も、この土地の歴史やストーリーを背負ったモノがたくさんあるんですね。それを使っているところも多いし、焼き物とかもそうです。しかもそれが最近できたものじゃなくて、もともとずっとそこに根付いたものがあって、こっちのほうが絶対いいものできると思いました。

夜明の宿プロジェクトについて

霜田:夜明の宿に関わるきっかけと思いを聞かせてください。

瀬戸口:私が経営しているの日田の宿(水処稀荘)に福岡移住計画の皆さんが泊まっていただいて代表の須賀さんから水処稀荘に感動されて、この宿も私にお願いできたらとご依頼頂いたことがまず、きっかけでした。

さらに詳しくこのプロジェクトのお話をする中で、外の(東京や福岡市内)のデザイナーではなく地元の職人さんとなるべくその土地の素材でつくりたいという話をお聞きして。そこに共感したり可能性を感じたというのがあります。合わせて金子社長の地域への思いをお聞きして、やってみたいと思いました。

霜田:施工にあたりこだわったポイントを教えてください。

瀬戸口:そうですね。まずは、日田はブランド杉「日田杉」の産地でもあります。今回ふんだんに日田杉を使い素足で気持ち良い空間を創ろうと思いました。
最も痛みの激しかったキッチン周りや水回りは、日田杉をふんだんに使い、気持ちよい空間に仕上げました。また、街の記憶を残すというコンセプトに共感していることもあり、できるだけ元の住宅の雰囲気や使えるものを残しました。この辺りも(欄間のあたりを指さして)、元々あるものですからね。ここは何もある意味いじっていないです。間取りもほぼ変えずに。

また、壁の雰囲気と色は特にこだわりました。柳川をイメージした配色を使い、特殊塗装にしています。間接照明(天井)も、もともとついているものです。今の時代に逆に作れないものやデザインがあったんです。使えるものは残しましょうと。

あとは畳ですね。今回畳に関しても、柳川の地元の畳メーカーのイケヒコにお願いしています。一般的な畳って緑っぽいじゃないですか。あれは、この畳のイグサの色じゃなくて、泥と染めることによってあの色になってあの香りが出ていたんです。僕らイグサの香りだと思ったら違う(笑)。
今回は無染土と言って、その泥染めを行っていない畳なんです。畳業界の課題として、泥染めは若い人たちが跡を継ぎたくなくなる理由の一つにもなっていると聞きました。無染土で畳を織るという取り組みをされているのを知って今回採用しています。

今後について

霜田:今後2軒目も計画されていると聞いています。どんな感じにしたいとか、さらにこういうことやってみようっていう考えとかあったりしますか?

瀬戸口:この物件は商店街の石畳の、白秋生家の前にあるというのが最大の魅力であり1つのポイントだとは思っています。ある意味、柳川の顔の一つのでもある場所。
だけど柳川の顔って、このほりわりだけじゃなくて、他にも有明海の湾の前のところにもあるでしょうし、いろいろな顔があると思って。その個性を活かしたものを作りたいですね。

霜田:場所に役割があって、そこに特徴づけるものということですね。

瀬戸口:そうですね。街にはいくつかの顔や、ポイントというものがあると思うので。そこにこういう地元素材を活かした表情のものがあるという。そもそも場所探しからじゃないですけど、そこから考えながら関われたら嬉しいですね。

霜田:しっかりと空き家を活用、リノベとか再生する醍醐味は、建物以外にもその土地や周辺のことも大切ということですよね。

瀬戸口:ロケーションやエリアの歴史や文脈はやっぱり買えないというか。それは、きっと宝みたいなものなので、そこをどう活かすかですよね。
柳川は掘割がひとつ面白いと思うので、ぜひこれからも面白いのができたらいいなと思いますし、川くだりで家の目の前まで船をつけて入れる家とか、そういうのができればと妄想しています。THE・柳川の家、ライフスタイルじゃないですか。そういうその土地にしかない、家だったら自分も泊まってみたいと思いますしね。

霜田:では最後に、ここに来られる方にメッセージをお願いします。

瀬戸口:「暮らすように泊まる」というのがコンセプトの宿だと思うので、ぜひ町をいっぱい歩いて、せめて2泊はしてほしいですね(笑)。
日帰りにはない、絶対に泊まらないと分からないことがあると思います。
それでやっと分かる町の魅力ってあると思うので、ゆっくり滞在して欲しいですね。

STORY

お知らせ